松本・横田～スーパーの思い出～

　小学生の頃、家から歩いて１分という近場にスーパーマーケットができた。

　近所では八百屋が狭苦しい店先に泥のついた大根を並べ、朝早くから忙しい豆腐屋はもうもうと湯気を上げ、遠足のおやつはおばあさんが薄暗がりに潜むよろず屋で調達していたあの時代に、あらゆる食料品から日用品、そしておもちゃに至るまで何でも揃う巨大店舗の出現は、夜が早い田舎町を照らす輝くばかりの明るさも手伝って、大人にも子どもにも大きな衝撃を与えた。

　それまで母の買い物のお供などしたこともなかった出不精の私が、スーパーへ買い出しに行く母には必ずついて行った。そのうち慣れてくると、１人で遠足のおやつを選びに行ったり、弟とプラモデルコーナーに座り込んで動く骸骨を見たりと、ほとんど毎日のように入り浸るようになった。
　当時の子どもたちにとってスーパーは、未来からやって来た夢のテーマパークのような存在であった。

　その年の夏休み、東京から従兄が遊びにやって来た。

　毎年夏休みのほとんどを松本の祖母の家で過ごすのが恒例となっている２才年上の従兄とは、とても仲がいい。今年従兄が来たら、真っ先にこのスーパーに連れて行ってあげようと、私はその日を楽しみにしていた。

　ところが、東京育ちの従兄は、一歩足を踏み入れるなり大笑いを始めた。　
　「ちっちゃいな～、Duarteちゃん、これじゃ自慢にならないよ」
　夢のスーパーが、従兄の笑い声に乗ってどんどん遠ざかっていくような気がした。

　冬になり、レジに新しく若いおねえさんが入った。

　このおねえさんが、私の顔を見ると笑う。
　最初は勘違いかと思ったが、どうもそうではない。お愛想で笑いかけるというような生やさしいものではなく、明らかに可笑しさを我慢できずに吹き出しているのである。
　度重なる仕打ちに、かつてはあんなに楽しかったスーパーが、むしろ苦痛の場所になってしまった。

　母に訴えると、問題のおねえさんにその理由を聞き出してくれた。

　「だって、ジュリーにそっくりだから」
　
　そう言って、おねえさんは大爆笑したそうである。

　ジュリーというのは、グループサウンズ全盛期に活躍した男性歌手である。
　今ならまさに大爆笑の思い出だが、小学生の私はとても繊細だった。
　
　「もう笑わないでね、って頼んだから大丈夫！」
　母にそう太鼓判を押されたところで、箸が転んでも可笑しい年頃のおねえさんが笑いを我慢できるはずがない。
　おねえさんはその後も私を見るたび、仲間とつつき合っては涙まで浮かべてますます笑い転げ、私はやがてスーパー通いを止めた。

　それから数年後、スーパーは閉店し、跡地には小ぎれいなハンバーガー屋が建った。

　あれから４０年が過ぎて、近所のコンビニでおにぎりを選ぶ。
　レジに立つバイト青年が何となく息子に似ているので、最近用事がなくてもちょっと立ち寄ってみる。
　
　ブスッとしたまま「温めますか」と聞くバイトくんに、息子の姿が重なる。
　息子もバイト先のコンビニでこんなふうに客のおにぎりを温めたりしているのだろうかと想像して、急激に可笑しさがこみ上げてくる。

　ニタニタしながらおにぎり１個を受け取るおばさんを見て、不機嫌だったバイトくんの顔に恐怖が浮かび上がってきたのに気づき、私はあわてて店を出た。

　スーパーやコンビニではやたらと笑ってはいけない。


松本市民タイムスより（I先輩、記事ありがとうございました）
今はモスバーガーになっているところに、当時は松電のスーパーがありました。

タグ：スーパー ジュリー 松本・横田

コメント 25

こんな所で新聞記事が役立ったのですか。
Duarteさんが実家に住んでいたら正面右奥のY商店の大得意先になっているでしょうね。みや寿しも酒類の選定はY商店にお世話になっているそうです。
by I先輩 (2009-05-16 16:44) 

な、な、なつかしい。ちんちん電車。この車両、正面にかごみたいなのがくっついていて、なにかな？と思って両親にきいたら”線路に入ってきた人を轢かないようにする”かごって聞いて妙に感動しました。

確か、横田駅だったか元町駅だったかのそばに”銭湯”がありました。うちのお風呂のお釜が壊れたとき行きました。風呂上りに飲む”フルーツ牛乳”のおいしさと言ったら。。。

これが現在ですか。。。残念ながらピンときませんが、右に見えるバンが
いる道が、女鳥羽川の橋に繋がってるのかな？とすると橋を渡った先が信大病院の南端？


by I-da (2009-05-16 22:13) 

＞I-daさん
バンがいる道は堤防道路に突き当たりです。一つ先の信号（左向こうがY商店）を右折して元町橋を渡り、200mで岡宮神社です。
by I先輩 (2009-05-16 22:44) 

＞I先輩　
ありがとうございます。

なんとなく、うすぼんやりではありますがイメージが湧いてきました。

先輩は松本にお詳しいようなのでお聞きしたいのですが、その昔（Duarteさん、私が小学生の頃）、元町に”学童会館”（名称は忘れました）があった記憶があります。図書室、卓球場があり外にはブランコ、トランポリンを備え付けた会館です。A町小学生の頃、わざわざ桐から卓球をやりに通っていました。それがどこにあったかご存知でしょうか？



by I-da (2009-05-16 23:28) 

小学生時代のDuarteさんは、ジュリーにそっくりだったんですね！
グループサウンズ（タイガース？）時代ではないジュリーしかわからないのですが、今のDuarteさんのお顔とはなかなか結びつかない・・・。
かくいう私も、中１の頃は麻丘めぐみに似ているといわれたものでしたが、もうすっかり変わり果ててしまいました。

また、私はよく「何笑ってるの？」といわれることが多いので、やたら笑わないように気をつけなければと思います・・・。
by Goldenwest (2009-05-17 00:42) 

松本のコンビニでおにぎりあたためますか？と聞きますか？
東京から帰ってきたうちなんチュは、沖縄のコンビニと北海道のコンビニしか、おにぎりあたためますか？と聞いてくれず，なんだか、ほっとする！と言ってました。

なんだか、県民ショーみたいですね。

ジュリー（笑）　そのお姉さんに一票！　そういわれれば，，，，はははは
by 垂乳根のご母堂 (2009-05-17 09:41) 

☆I先輩、
3月に送って頂いた市民タイムスの記事の写真がまさに今回の場所にどんぴしゃで、子供の頃のうすぼんやりした記憶がこの写真のおかげでまざまざと蘇ってきました。
ありがとうございました！

みや寿しさんもY商店のお客さんなんですね。うちの実家もY商店から毎月一升瓶１ダースとってるそうです。父のお気に入りは『両関』です。

by Duarte (2009-05-17 14:12) 

☆I-daさん、
元町の学童会館（児童会館？）、ありましたねぇ。
写真のバンの道を突き当たって右に曲がった女鳥羽川沿いにあったような気がします。
私も弟もよく行きましたが、私たちの出身であるS小学校の友達はあまり行ってなくて、A小学校など他校の子が多かったです。うちはS小学校区の東端だったんですね。

銭湯は横田に1つありましたねぇ。弟はフルーツ牛乳派、私はコーヒー牛乳派でした。
by Duarte (2009-05-17 14:23) 

☆Goldenwestさん、
やっぱり！
アメリカで初めてお会いした時、満場一致で（夫と私ですが）、『Goldenwestさん＝麻丘めぐみ』ということになっていたのでした。うん、うん、やはり似てらっしゃいます。

小学時代はジュリーにそっくりと笑われた私、中学時代はポール・マッカートニーと呼ばれて笑われてました。なぜ男ばかり？
by Duarte (2009-05-17 14:35) 

☆垂乳根のご母堂さま、
松本のコンビニはどうかわかりませんが、大阪のコンビニは「おにぎり温めますか？」と聞いてくれます。東京は聞いてくれないんですね～。じゃ、息子も客のおにぎりは温めてないんだな～。

ジュリー、ポール・マッカートニーときて、大学時代はヨーダとウワサする者あり（それはO椋さんとヨッシー君でしたわね、ホホホ）

by Duarte (2009-05-17 14:46) 

> Duarteさん
ジュリー、笑いました。確かにそーだわ。現在、Duarteさんがピチピチ女子大生の頃を顔を思い出して笑っています。O椋さんて教養で同級生だった人ですか？

蟻ヶ崎にも児童会館があって、そっちはF小、Ka小、の生徒が多くなんとなく”オハイソ”ぽかったんで、元町の方に行っていました。

子供時代、Duarteさんとはあまりにも生活圏が近かったんで、昔の写真を見ると、偶然にも写っているかもしれません。こんど松本に帰ったらみてみます。
　　　　　　　　　キーワードは　”ジュリーを探せ”
by I-da (2009-05-17 22:21) 

☆I-daさん、
O椋さんはそうです、教養で一緒だった人です。クラスから一緒に学部移行したのは、O椋さんとT畑さんとK千代くんと私、という格調高き取り合わせでした（笑）。

蟻ヶ崎が”オハイソ”っぽいっての、なんとなくわかります（笑）
元町の児童会館は”雑煮の餅なら８つ食えます”ってな男子がいっぱいいました。
by Duarte (2009-05-17 23:35) 

あっはっは～、確かに格調高いけど、その面子笑えるといえば笑えますね。DuarteさんとK千代君がコンビで出てくると笑えてくるのはなぜでしょう？。
by I-da (2009-05-18 02:41) 

ははははは。笑えますねー．
いやあ、まっこと強烈なメンツでしたねー．なんなんだろう、という人たちばかりでしたねー．ヨーダといいながら、うふふふふと笑うヨッシー君の姿が目に浮かびます．I-daさん、K千代君は一目見たら忘れられない風貌なのはわかりますが、、、もしかして、K千代君のマドンナはDuarte さんだったのでしょうか。はははははは。
by 垂乳根のご母堂 (2009-05-18 11:58) 

＞I-daさん（＞Duarteさん）

場所はDuarteさんのかきこでOKです。城東地区福祉ひろばの併設施設で「元町児童館」が正式名称です。（市役所のHPで確認しました）
by I先輩 (2009-05-18 19:05) 

☆I-daさん、
30組の担任だったK藤先生が源氏物語だったかの講義の時に、ふいにK千代君に「君には恋愛はわからんだろうけれどもね～」なんて言ってたのがいまだに印象的ですが、K千代君もご結婚なさってねぇ～。

by Duarte (2009-05-18 23:49) 

☆垂乳根のご母堂さま、
O椋さんはよく私の似顔絵を書いて「ホレ」と見せてくれましたが、それは私じゃなくてヨーダだったし。またその絵がうまいんだな～。

K千代君もあの頃大学生だったんですねぇ～（笑）。同じ教室にいるK千代君を見ると、中学時代にタイムスリップしたね。
by Duarte (2009-05-18 23:55) 

☆I先輩、
やっぱり場所はあそこであってましたか！
ここ何十年も思い出したこともなかったのに、意外に覚えてるもんです。

by Duarte (2009-05-18 23:59) 

> I 先輩

場所の確認ありがとうございます。元町児童館のことは時折ふと思い出していたのですが、場所をすっかり忘れていました。なつかしいです。

＞J医学部関係の方々

K藤先生。。なつかしいですね。とても温厚な先生でした。K千代君に関する恋愛についての感想は、彼の当時の風貌からして当然かも。

J医に行ったのは、O花君がいましたね。垂乳根のご母堂さまがおっしゃるように、”なんなんだろ～、この集団？”と言われてもしょうがないですね。強烈すぎ！！。
by I-da (2009-05-19 00:30) 

☆I-daさん、
いかん！大事な○花くんを忘れてました！
ほんとうに強烈な面々がよくもそろったもんですね。
そんな中で、私ってなんて普通（＝マトモ）なんだろうって思うのは決して勘違いではありますまい（笑）。
by Duarte (2009-05-19 23:50) 

まあ、何をもって”普通”とするのかがその基準が大事だとは思いますが、
確かに”そのメンツ”の中ではDuarteさんは”まとも”な方だったですね。

垂乳根のご母堂さんのセカンド・オピニオンをお聞きしましょう。
by I-da (2009-05-20 01:25) 

o花君も一緒だったのですね。そりゃ、すごいわ。
>I-daさま
私にセカンド・オピニオンを求めるのは、やはり自分を知る限り、役不足でございまする。同期の中では，どうころんでも、普通の基準がみつからない、、、、ってことは、どんな集団だったんじゃい
Duarteさんはそりゃあ”まとも（普通とは言ってない）”でしたともさ（笑）
by 垂乳根のご母堂 (2009-05-20 08:23) 

☆I-daさん、垂乳根のご母堂さま、
卒業して何十年ぶりかで会うと、だいたいみんな、すっかりマトモになって～と思うんですけど、J学部同期に関しては、変わらんような…（笑）
とはいえ、ご結婚後のK千代君がどのように変化してらっしゃるか、これはわかりませんですね。

同期で唯一芸名をお持ちの垂乳根のご母堂さまもそりゃあ有名人でしたしなあ。夏がく～れば思い出す～♪

by Duarte (2009-05-20 22:09) 

また、今年も飲みたいですね〜
楽な連中のほうと、という条件付きで。ほほほほほ
娘がDuarteさんに会いたがってますよ。
強烈なメンツの子供達はみんな”まとも”に育っているようですなあ。
by 垂乳根のご母堂 (2009-05-21 14:20) 

☆垂乳根のご母堂さま、
子供たちはいたって”まとも”ですねえ、ご令嬢様などは特に。
息子もお上品な飲み方しますからねえ。
それでも男子大学生か！と言いたくなるような慎ましやかな飲み方ですからねえ。

一緒に飲みたいですね～、ご令嬢様とも。
大先生はヌキで。ほほほほ
by Duarte (2009-05-21 16:08)